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あの日見上げた空には、星も月もなかった────
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Author:水無月十夜
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葛の葉の狐神
狐神社

かつて俺は神殿に忍び込んで文書を盗み見た事がある


そこに記されたのは、12000年の眠りから目覚めた少女と、屍肉喰らいの狐の出会い
すなわち白面九尾の祖たる「あやかし」の誕生


そうだ
かつてこの秋津島を揺るがした大妖怪
白面九尾

葛の葉が真に祀る神は、白面九尾なのだ


表向きには
東日流の地を平定した英雄、蛇比古之命を祀っている事になっている

それを行うのは
赤い鳥居、赤狐の巫女のいる表の狐神社

だがしかし

裏山に設けられた岩倉
その奥に息づくのは
黒い鳥居、黒狐の巫女のいる裏の狐神社


一握りの人間だけが知る葛の葉の秘密
かつて、東日流の民は「それ」に支配されていた

祟りは怖れ
怖れは敬い

すなわち

力無き者は、神に従い、神に縋り
神と交わる

そして産まれた異形の子ら
その遠い遠い子孫が

葛の葉の民

かつて、九尾の祖として眠りから覚めた少女が胎に宿していた命には
秋津島のものとは異なる「術式と魔力」が蓄えられており
少女には少なからずその知識があった

それが「紫の夢」の中でおきた「20日間の呪い」の産物

それらを受け継ぎ
来るべき日を待つ

異端の魔法使い
葛の葉

「竜」の子が少女を迎えに顕れる日まで
葛の葉は少女の眷属であるはずだった

だがしかし

12000年の眠りから覚めた少女の精神は

遙かなる時を経てなお救われず
いつ顕れるとも知れない竜の子を待ち続ける孤独で

狂った

己を敬い、祀る民を捨て
いずこかへ消えた


次に秋津島に姿を現した時
少女には既に以前の面影はなく
神性も失われ

八本の尾をうねらせる大妖怪と成り果て

秋津島の西、山門朝廷を滅ぼした


それ以降は民草の知る通り


そして、彼女は再び甦る
かつて己を敬い祀った葛の葉に

それがこの縁起のはじまり

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